戦場から生きのびて—ぼくは少年兵士だった—
イシメール・ベア著 忠平美幸訳 河出書房新社 2008年 シエラレオネ 中学生から

シエラレオネに生まれ、12歳で内戦に巻き込まれて少年兵士となった著者の回想録。反乱軍から逃げる間に家族や友人と離別し、苦難の旅の末たどりついたのは政府軍のテントだった。そこは安住の地と思え、銃とマリファナをあたえられて殺戮に明け暮れる。2年後ユニセフに保護されるが、戦闘のただ中にいた元少年兵士には、更生施設の生活はまがいものにしか見えない。彼は激しく反抗し、ドラッグの禁断症状にも苦しむ。やがて大好きだったヒップホップがきっかけで心を開き始めると、この体験を世界の人々に語ることが自分の使命だと自覚する。凄惨なシーンを含む衝撃的な著作ではあるが、著者の巧みな描写力と語りは、読み応えがある。


サラの旅路—ヴィクトリア時代を生きたアフリカの王女 ★
ウォルター・ディーン・マイヤーズ著 宮坂宏美訳 小峰書店 2000年 ペナン 小学校高学年から

アフリカのある王女の運命を描いた実話。19世紀半ばに西アフリカ、オケアダンの王家に生まれたサラは、5歳の時隣国ダホメー王により家族を虐殺され、捕らわれる。あやうく生け贄にされるところを、奴隷貿易廃止の使命を帯びて来ていたイギリスの海軍士官に救われ、ヴィクトリア女王への贈り物という名目でイギリスへ。以後は女王の庇護を受け、上流階級の家で育てられ魅力的な女性に成長するが、自分の本当の居場所が見つけられない。やがて結婚し、西アフリカで事業とキリスト教の布教に携わる夫とともに教育に力を注ぐが、病に倒れ若くしてこの世を去る。奴隷貿易の問題や英国人の特権意識など、サラの目を通して考えさせられる。肖像写真あり。



シュヴァイツァー—音楽家・著作家の実績をなげうって、アフリカの医者として献身した人
ジェームズ・ベントリー著 菊島伊久栄訳 偕成社 1992年 <伝記世界を変えた人々7> ガボン 小学校高学年から

1913年にガボン共和国(当時はフランス領)のランバレネに病院を建て、50年にわたりアフリカ人の医療に携わったドイツ人医師アルベルト・シュヴァイツァーの伝記。日本では1950年代から、子ども向けのシュヴァイツァーの伝記が数多く出版されてきたが、その多くは、伝染病のはびこる「暗黒の地」アフリカに生涯を捧げた聖人として描いたものだった。しかし本書は、悩みながら自分の道を切り開いていった1人の人間としての生き方を感傷を排して客観的に追っており、アフリカへの偏見も見られない。本人の著書からの引用や多数の写真も興味深い。「偉人伝」としてよりも、当時のアフリカの様子を知るための資料としてすすめたい。


ツツ大主教—南アフリカの黒人差別・アパルトヘイト(人種隔離)政策に対してたたかう勇敢な大主教
デイビッド・ウィナー著 箕浦万里子訳 偕成社 1991年 <伝記世界を変えた人々4> 南アフリカ 小学校高学年から

1931年に南アフリカの貧しい黒人町に生まれたデズモンド・ツツは、大学を卒業して教師になるが、黒人に充分な教育を受けさせることを阻む「バンツー教育法」の施行で教職をあきらめて神学校に行き、司祭への道を歩み始める。本書は1984年にノーベル平和賞を受けたツツ大主教の伝記だが、個人の歴史にとどまらず、南アフリカの悪名高きアパルトヘイト体制がどのようなものだったか、ツツや黒人たちはそれとどのように闘ったのかについて、ていねいな記述がなされていて、わかりやすい。ただし原著は1989年に出版されたものなので、今後の再版時には、1994年の民主化とその後の様子もつけ加えてもらえると、さらによいのではないだろうか。

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©Hidenori Motai
〜「アフリカ子どもの本プロジェクト」作成 アフリカに関する児童書おすすめリスト〜
このリストは、「アフリカ子どもの本プロジェクト」が作成したものです。日本の子どもたちに、アフリカのことをもっと知ってもらうためにぜひ読んでほしい本を選びました。
●配列の順番 ジャンル別→書名50音順
●2007年8月の時点で入手できない本は除きました。その後品切れになった本は、書名の後に*をつけました。
●作品の舞台や、登場人物に関連のあるアフリカの地名を記入しました。
物語絵本
昔話(昔話絵本、昔話集)
児童文学(小学校低学年〜、小学校中学年〜、小学校高学年〜)
ノンフィクション(地理)
ノンフィクション(社会問題)
ノンフィクション(文化・暮らし)
ノンフィクション(動物)
エジプトのミイラ
アリキ著・絵 神鳥統夫訳 佐倉朔監修 あすなろ書房 2000年 エジプト 小学校低学年から

エジプトのミイラやピラミッドはなぜ、どのようにしてつくられたのか? 科学絵本を得意とする著者がその疑問に答えてくれる絵本。およそ 5000年前、北アフリカに栄えた古代エジプト文明のミイラづくりの工程やミイラの種類、ミイラのお守りや棺、墓やピラミッドの仕組みなどを解説していく。古代の絵画や彫刻に基づいて描かれた絵と文章は簡潔でわかりやすい。人が死んだ後、この世と同じように墓の中で死の世界を生き続けられるようにと、古代エジプトの人々は考えていた。当時の宗教観や精神世界についても子どもたちに分かりやすく伝えてくれる。


古代エジプト入門
内田杉彦著 岩波書店 2007年 <岩波ジュニア新書> エジプト 中学生から

ナイル川の氾濫を活用することから生まれたエジプト文明は、農耕・牧畜の時代を経て、紀元前3000年ごろには統一国家を成立させた。「神」として強大な権力を持つ王が君臨する歴代王朝は、独自の文化を発展させていく。最後のプトレマイオス朝に至るまでの約5500年に及ぶ歴史を、数々の王朝の盛衰をたどりながらコンパクトに解説した本。著者はエジプト学専門の研究者。巻末で、さらに知識を深めたい読者に参考図書を紹介している。簡単な年表付き。必要な写真や地図、図版が挿入されているが、新書なので小さい。中高校生が、しばしば催されるエジプト展やテレビ番組の特集などを見て興味を持ち、歴史を勉強したいというときにすすめたい。



動物研究者ダイアン・フォッシー
柴田都志子著 理論社 2004年 <こんな生き方がしたい> ルワンダ 中学生から

ゴリラの生態の研究者として著名な女性の伝記。フォッシーの著作をもとに、実際に接したことのある日本の研究者に取材をしたり、サル学の研究者の著作から彼女に言及しているものを取り上げたりしてまとめてある。紆余曲折を経て、自らの信じる道を選びとり、ゴリラの生態を間近で長期的に観察することでオーソリティーとなった様子がていねいに描かれている。マウンテンゴリラのことやアフリカにおける環境保護と暮らしの両立の難しさ、彼女の悲劇的な最期とその後の世論の高まりまで描き、現在へとつなげている。簡単な年譜付き。様々な職業分野で活躍する女性の伝記シリーズの1冊で、読み物としてもおもしろい。


ワンガリの平和の木 アフリカでほんとうにあったおはなし
ジャネット・ウィンター文・絵 福本友美子訳 BL出版 2010年 ケニア 小学校低学年から

アフリカ女性で初めてノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイの伝記絵本。ケニア山のふもとの緑豊かな村に育った少女ワンガリがアメリカ留学から帰国すると、故郷の自然は荒れ果てていた。自宅の裏に9本の苗木を植えることから始めた小さな緑化運動が、村の女性たちに伝わり、他の村や町へ、やがてアフリカ全土へと広がっていく。作者は伝記絵本の名手。1人の女性の信念が困難に打ち勝ち人々や社会を動かしていく様を、平易な言葉とすっきりデザインされた画面で、わかりやすく簡潔な物語にまとめている。「グリーンベルト」が伸びていく様にわくわくし、ラストのケニア山頂からの眺望には大きな達成感と開放感を共有できるだろう。